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秋のカブトムシ

じーばーの家の虫かごには一匹のオスのカブトムシが飼われている。
5月ごろだったか。森のようちえんのおともだちの、Sくんのお父さんが、子どもたちみんなにカブトムシの幼虫をプレゼントしてくださった。
小さめの虫かごの中に半分くらいまでマットと呼ばれる発酵した木くずが入っており、その中に大きくて白いイモムシが寝ていた。
幼虫は少しずつ大きくなり、黄色い蛹になって、ある日気がついたら、黒光りするカブトムシに変身していた。
おにいちゃんがカブトムシを触るのをちょっと引き気味にこわごわ見ていたはるるだったが、こついたりつついたりするうちに自分でも触れるようになった。彼は生き物が好きで、カブトムシにも興味深々。

餌をホームセンターに買いに行った。
僕が子どものころはリンゴとか砂糖水をやっていたような記憶があるが、今は昆虫ゼリーというとっても便利な餌が簡単に手に入る。
人が食べる一口サイズのゼリーと同じ形状をしており、ふたのビニールをはがして止まり木の餌置き用穴に押し込む。
カブトムシをつまんでゼリーに近づけると、ガッツリしがみついて食る。一日で全部なくなってしまうこともある。
僕は昔っから生き物の世話がとっても下手で、今回も遠くから眺めるオブザーバーに徹していた。
かわりに相方がこまめに様子を見て、餌をやってくれた。
最近はポコ太がよく虫かごのそうじやゼリーの交換をしてくれる。

いつだったか、虫かごのふたを開けたポコ太が「あ!」と叫んだ。
虫かごのフタをするとき、コバエが入らないように白い不織布をかご本体の上にかぶせてからフタを閉めるようにしていたが、なんとカブトムシがその不織布に絡まっていたのだ。
角や足や胴体に白い繊維を巻き付け、どうにもこうにも身動きが取れない状態になってもがいていた。
不織布は化学繊維でできているので、力持ちのカブトムシがいくらがんばったところで引きちぎることはできない。
はるるとポコ太が見守る中、救出作戦が始まった。
というかハサミで絡まった繊維を切りはなすとわりとあっさり助け出せた。
僕の左手につかまれたカブトムシは六本の手足をモゴモゴと動かしている。
彼の固い前羽がうにゃうにゃと波打っている。ちょっと奇形。これで飛べるのだろうか?

それ以来不織布のかわりに新聞紙をはさんでからフタをするようになった。
時々ポコ太が「あー、また新聞やぶっとるわ」とつぶやいている。

彼はこの虫かごから出たがっているように思われた。
勝手な解釈だけど、僕はあの繊維に巻き付かれて蠢いていたその姿に、彼を突き動かす強い衝動のようなものをイメージした。
堅牢な虫かごのフタの向こう側に広がっている広い空の存在を、彼は知っているのではないだろうか。
「行かなきゃ、飛ばなきゃ」って。

たぶん誰だって行きたくても行けなかった場所、やろうとしてできなかったことの一つや二つ引きづりながら生きている。
僕はあのカブトムシを見るといつもちょっと気になってしまう。
彼は天敵のカラスの待つ大空を飛ぶこともないまま、でも飢えることもなく、虫かごの中で一生を終えるだろう。

最近よく聞くのが米津玄師の「ピースサイン」という楽曲なのだが。
この曲を聴いていると無謀にも、というか自分でも意味もよく分からず、オレマダヤレルンジャネ?的な気分になってくるから始末が悪い。
やれやれ。

ポコ太の小学校の運動会が先週終わった。
明日ははるるの田んぼの稲刈りが行われる。





by forestfish3838 | 2017-09-30 22:55 | 今日の出来事